読書のものさし

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【爆笑】その男、異邦人につき! 深沢七郎「言わなければよかった日記」~

ギター

 

今回読んだ本は、深沢七郎『言わなければよかったのに日記』

3章形式で展開される、260ページあまりのエッセイ集です。

 

肩の力が抜けた自然体の文章が心地よく、

すいすいと読み継いでいけます。

 

本書の読みどころは、ひょんなことから文壇の仲間入りをすることになった、

作者のとまどいや不安が読者を笑いの渦に巻き込んでいくところです

 

🔻『言わなければよかった日記』の内容

 

本書は、文士との交遊録、母の思い出、小話などを盛り込んだ、3章形式で編まれたエッセイ集です。作者の風貌が筆に表れたような自然体の文章が心地よく、さくさくと読み継いでいけます。なかでも腹を抱えて笑ったのが、表題作の「言わなければよかった日記」でした。

 

「言わなければよかった日記」は、正宗白鳥、武田泰淳、井伏鱒二といった文士との交遊録を綴ったものです。このエッセイは、本書のなかでも異彩を放っています。というのも、文壇事情に通じてないことから生じる、作者の来歴に深く関わっているからです。

 

🔽異色の経歴をもつ深沢七郎が小説家デビュー 

 

深沢七郎は中学卒業後、諸国を放浪し、ギター奏者として活動した、異色の経歴の持ち主です。写真で見ると、下駄をつっかけ、居酒屋をハシゴする、下町にいる「おいちゃん」といった風情を醸し出しています。

 

彼の運命は「楢山節考」を小説の新人賞に応募して大きく変わりました。三島由紀夫や武田泰淳といった選考委員に絶賛され、作家として世に登場したからです。大学出のエリートが集う、文壇の仲間入りをしたのです。

  

彼は幼い頃から小説家を夢見ていた訳ではありません。絵描きの才能がなかったので、自分の好きな風景を、言葉(小説)で描いてみたかったというのが、『楢山節考』を書いた真相です。しかし、つい出来心ような気持ちで書いた小説が、新人賞に輝き、思わぬ反響をよんでしまった。た、た、大変だぁ……。

 

🔽偉い先生方を前にして大暴れする深沢七郎!

 

「言わなければよかった日記」には、そんな彼が文士たちと交友する様子が描かれています。彼は大学出の先生方を前に謙遜するどころか、文壇事情に通じてないことをいいことに、大暴れの活躍をみせるのです。奇妙奇天烈な言動で、後悔と失敗を繰り返すその様が、読者の笑いをさそいます

 

しかし油断はなりません。「無知」という免罪符を懐に入れ、彼らにきわどい質問も浴びせもします。正直、トボケているのか、ふざけているのか、作者の真意はよく分かりませんが、新たな環境に直面した、その不安やとまどいが、笑いにさま変わりすることに驚かされます。まさに「異邦人」っぷりが存分に発揮されています。

 

🔻その真意はさておき、

 

作者の言動からは、良い意味で幼児性の強さを感じさせます。初読の際は、次々と繰り出されるその言動に、呆気にとられるばかりで、真意を計りかねていたのですが、その奇怪な言動が、次第に腑に落ち、気づけばひとり爆笑しておりました。痛快エッセイです。今年は作者の歿後30周年とのこと。この機会に是非に読んでくださいまし。

 

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