読書のものさし

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恋愛ベタな僕が大学生に『愛の試み』をおすすめする理由

タイプライター

 

今回読んだ本は、福永武彦『愛の試み』

 文庫本にして160ページと短い、哲学風のエッセイです。

 

愛という抽象的な内容をあつかうため、硬質な文体で、

抽象的な言葉が多く使われています。

 

ですが、エッセイをもとにした挿話付きなので、

読者が実感に即して理解できるようにも工夫されています。

 

恋愛を通して、他者との在り方についても学ぶことができます。

それでは、以下に本書の内容を書いていきます。

 

🔻福永武彦のプロフィール

 

福永武彦は、現・福岡県筑紫野市に生まれた、戦後に活躍した小説家&詩人です。幼少時は、父の影響で転勤を繰り返しました。昭和16年、東京帝国大学仏文科を卒業。戦後、北海道・帯広市に中学校教師として赴任。しかし、持病の肋膜炎を発症し、東京の療養所に入ったことを機に、本格的に作家活動に入ります。 

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戦後、中村真一郎、加藤周一らと、同人誌「マチネ・ポエティックス」を刊行。日本語での詩の可能性を探る運動を起こしました。昭和29年『草の花』を発表し、文壇に地位を確立。加田伶太郎の名義で発表した推理小説のほか、映画「モスラ」の原作者の一人としても有名です。人間の内奥にひそむ心理を描く筆に定評があります。

 

🔻 『愛の試み』の内容について

 

『愛の試み』は、愛と孤独について考察した哲学風エッセイです。考察の範囲は、異性との間で生じる愛の発生から終焉に至るまでが対象となります。また要所では挿話が付いており、実感に即して内容を理解できる仕組みにもなっています。

 

作者は、人が生きていくうえで、欠かすことのできない要素が、愛と孤独の2つにあるといいます。生を充実するための要素として、愛を挙げるのは理解しやすいでしょう。では、孤独はどう関係があるのでしょう。

 

それは愛と孤独が表裏の関係にあるからです。作者は言います。人は生まれながらにして、孤独と愛とを宿している、と。幼児期は「愛すること」と「愛されること」が不可分な状態にあり、愛と孤独とはいまだ対立し合う関係にはありません。

 

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しかし思春期に入ると、エゴが芽生え、愛することと愛されることの量を比較するようになる。すると、次第に孤独の意識をつのらせ、他人の愛をひとり占めしようとの思いにかられる……。こうした過程において、人は自分だけの愛の対象を求めるようになっていきます。

 

そこに異性への愛が生じてくるのですが、その愛に比例して、孤独の思いの強さも大きくなる。つまり異性へ寄せる思いがつよければつよいほど、孤独の大きさが増すというのです。そして人は生まれながらにして、愛と孤独に宿命づけられた存在だ、と説くのです。

 

🔻「愛の試み」の感想について

 

私がこのエッセイを読んだのは、20代の初めの頃でした。その時の感動は今でも忘れられません。当時の私は、友人がろくにおらず、恋人もいませんでした。ひとりで過ごす時間が多く、寂しさや孤独感におそわれ、生きている実感にとぼしかったのです。そんなひとりぼっちの私に、この本は生きる励ましをくれました。 

 

🔽本を読むタイミングの重要性

 

私が感動したのは、内容もさることながら、作者の詩的で美しい文章と観念的な世界に魅了されたせいでもありました。観念的であるからこそ、感動がいっそう増幅したともいえます。そもそも読書は、本の内容もさることながら、読む人間の年齢、状況、タイミングにも大きく左右されます

 

本を読んでも、内容がすんなり頭に入ってくることもあれば、入ってこないこともある。読書は、読む側のコンディションや状況にも大きく関わってくるものです。本の内容と自分の問題意識が、うまくマッチしていれば、すんなり本の世界に入り込めるし、得た感動もいっそう大きくなります。

 

🔽『愛の試み』に生きる勇気をもらう 

 

いま思えば、この本を読んだのが二十代の初めだったというのは、タイミングとしては最適だったように思います。当時の私は孤独感にさいなまれ、それとどう付き合っていけばいいか、分からなかったからです。寂しさにおそわれるいっぽうで、それを深く考える術も見つけられませんでした。

 

ですが、この本を読んで「お前はそのままでいいんだよ」と、声をかけてもらったようで、生きる勇気がわいてきました。「決して、お前だけじゃない。孤独を感じるのは、特別なことじゃない。人間誰しも、寂しさに襲われ、悲しみに暮れることもある。それが生きていることなんだ」、と。

 

🔽愛を語るのは若さの特権!?

 

いまでは「愛」などと聞くと、私などは小恥ずかしい気持ちにおそわれますが、若い時は、経験がない分、答えのない問いを、ああだ、こうだと考えたものです。時には、数少ない友人と、ひとつのテーマをめぐって、とりとめない議論をかわすこともありました。「アオハル」ってやつです。

 

そんな時期に読んだからこそ、私は「愛」が考察されたこのエッセイに感動したのだと思います。大人になって、このエッセイを読んでいれば、また違った印象を抱いたことでしょう。この2つが、本書を大学生におすすめする理由です。

 

✎おすすめ理由

・生きる勇気をもらったこと
・愛という若い時分にぴったりのテーマ性

 

🔻恋愛の醍醐味は他者性にこそある

 

恋愛とは、相手に思いが通じて、はじめて関係が成り立つものです。どちらか一方的に思いを寄せ、いくら情熱を燃やそうと、相手との関係がある以上、その思いが必ずしも実るとは限りません。私も泣くほど恋愛には苦労しました。

 

また恋愛とは人が物心ついてから、初めて本質的な他者に遭遇する機会でもあります。いいことばかりではなく、理不尽なことにも多く直面するはずです。自分の思いが通じず、ままならないこともある。そこに恋愛の醍醐味があります。

 

異質な他者との付き合いにこそ、恋愛の本質がひそんでいます。大学生の方、失恋した方、寂しさに押しつぶされそうな方、ぜひ手にとってください。個人が全盛の時代に、恋愛の奥深さと他者とのあり方について、考えを深めませんか。

 

  

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